レクチャーコンサート〜マリンバ〜

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IMG_00069月にパスキエのレクチャーコンサートを聴いて、演奏だけではなく、演奏者の生のお話を聴ける楽しさを味わったので、同じシリーズの安倍圭子さんのマリンバのレクチャーコンサートに行ってきました。

恥ずかしながら、マリンバについてほとんど何も知らなかったので、すべてが新鮮でした。

1956年、キリスト教普及のためにアメリカから来ていた宣教団が日本に楽器を持ち込んだのだそうです。

演奏者の安倍圭子さんは、教会で聴いたマリンバの音色に魅了され、1962年から演奏活動を始めたそうです。この日の会場でもあった東京文化会館の歴史と同じなのだそうです。

安倍さんがマリンバを始めた当初は、マリンバ独自の作品が無く、ヴァイオリンやフルートの曲をアレンジして、ピアノの伴奏で演奏することが多かったそうです。なぜ、マリンバのための曲が無いのだろう?と疑問に思い、あって然るべきと考えた安倍さんが、いろいろな作曲家に依頼して、また、作曲家に支払う予算を獲得するために、あちらこちらの企業に働きかけて、ようやく、オリジナルの作品が誕生したそうです。コンサートの前半は、そんな苦労の末に出来た曲を中心に聴きました。当時は新作でしたが、今では世界中のコンクールの課題曲となっている程普及している曲だそうです。(安倍 圭子:古代からの手紙、三善 晃:トルスⅢより「テーゼ」、田中 利光:マリンバのための二章より 第1楽章、末吉 保雄:ミラージュ〜マリンバのための〜、三木 稔:マリンバ スピリチュアル)

後半は安倍さんの創った曲を聴きました。(道Ⅱ、祭りの太鼓、風紋Ⅱ、わらべ歌リフレクションズⅢ〜2台のマリンバと二人の打楽器奏者のための〜)

全身で風景や心象を表現する演奏は、エネルギッシュで、ダンスを見ているかのようです。マレット(バチ)の素材によって、出てくる音色が全く違うのがおもしろく、時には足に鈴を付け、手首にはマラカスのような打楽器をつけて表現する姿にビックリしました。

桐朋学園大学の打楽器科の教授と学生さんとの共演も多かったのですが、安倍さんを中心に一体となっていて見事でした。

先生として、世界中を教えて回ってもいらっしゃるそうです。学生さんに教える方法のひとつとして、面白い方法を披露してくださいました。ヨーロッパの先生方はあまり取らない方法だそうですが、安倍さんは、学生さんに少し音楽が足らないな、とか、世界観が違うな、と感じると、その学生さんと一緒に演奏をするのだそうです。全く同じ音を演奏するだけではなくて、即興で音楽をリードしていくのがコツのようです。特に日本人の作曲した曲を演奏するわけですから、日本特有のお家芸の要素はヨーロッパの学生さんには特に理解が難しいのかもしれませんから、そうやって伝えていただけたらよく理解できるのだと思います。その方法で伝えると、日本の学生さんでもヨーロッパの学生さんでも、自然と音楽が広がって、表現が大きくなるのだそうです。

それから、こんなこともおっしゃっていました。初めてヨーロッパに行った時に、不動の様相で立ちはだかる石の文化の前に、紙と木の朽ちる文化の中で暮らしてきた日本人である自分がどうしたらよいのか、わからなかったそうです。でも、日本人としての原風景と、その中で過ごした満ち足りた子ども時代が自分を支えてくれて、海外でも共感を呼ぶ演奏をすることに繋がっているのだそうです。

マリンバは日本から発信される要素が多いようですが、一般にクラシック音楽というとヨーロッパのお家芸です。ですから、ヨーロッパの文化や風習や音楽のルールを学ばなければなりませんが、日本人としての遺伝子に誇りをもってうまく融合させていくというのは素晴らしいことだな、と感じました。マリンバという楽器と、安倍圭子さんという素晴らしい音楽家を通して、自由で解放された音楽の世界を堪能することができました。一流の人から放たれるエネルギーが会場に充満していて、そのパワーに触れることができて幸せな晩でした。アンコールで演奏されたドナドナのメロディーの変奏曲(曲名がわかりません)が心に染みました。

このシリーズの次回は1月9日。若手ピアニストの小菅 優さんの演奏とお話を聴く予定です。