カール ライスターを聴く

標準

IMG_2363昨日、大手町の日経ホールでカール ライスターの演奏を聴きました。ベルリンフィルで長い間ソロクラリネット奏者として活躍された、世界を代表する巨匠です。

74歳の巨匠と、28歳の佐藤卓史さんとおっしゃる若いピアニストの競演で4曲(メンデルスゾーン/クラリネットソナタ、シューマン/幻想小曲集、ダンツィ/クラリネットソナタ、ブラームス/クラリネットソナタ第2番)、佐藤さんのピアノソロで3曲(シューベルト/即興曲、リスト/愛の夢、シューマン/献呈)、というプログラムでした。すべてドイツロマン派の作曲家による作品です。

最初のメンデルスゾーンのソナタが始まった途端に、頭の中に木漏れ日の暖かい森の風景が浮かび始めてしまい、それからはずっとビルの建ち並ぶ大手町ではなくて、どこかの自然の中でくつろいでいるような時間を過ごしました。

ライスターさんの音と音楽は、とても心地の良い、当たり前にある風景の中で、当たり前の日常が営まれているような感じがしました。どの曲も温かく、熱いのだけど力んでいない、自然な時の流れにたゆたうような感じです。

また、楽器の吹き口に被せるキャップを取ったり付けたりする動作、管の中を掃除する動作、そして音楽、すべてが音や楽器や音楽に敬意をはらうような所作になっているのを見て、一時が万事なのだな、と我が事を深く反省しました。

ピアニストの佐藤さんの演奏は初めて聴きましたが、ドラえもんのようなまぁるい風貌からは予想できなかった、繊細で優しい音のピアニストでした。どんなに熱くなっても、とがった音ではなくて、響きのある丸い音でした。ピアニストが熱くなりすぎてしまうことが多いブラームスを、あれだけ繊細にクラリネットに寄り添えるなんて、余程の技術と心のコントロールが出来る人なのでしょう。どの曲でも、とにかくp(小さい音)が美しかったです。ソロもアンサンブルもできるピアニストは貴重ですから、これから世界中で引っ張りだこになるのではないでしょうか。

アンコールで、シューベルトのアヴェマリアを吹いてくれました。演奏の前に「福島のみんなのために演奏します。」と日本語でお話してくださり、涙を流していらっしゃいました。有り難くて、わたしも涙が出てしまいました。心に染みる演奏で、また涙が出ました。吹き終わった後、しばらく立ち上がらなかったのは、お祈りをしてくださっていたのでしょうか。。。日本のために、世界の巨匠が想いを込めて演奏してくださったことを忘れることはありません。ありがとうございます。

人は、年と共に体は老いていくけれど、精神は成長を続ける、と聞いた事があります。音楽でなくても、それぞれがそれぞれの人生の中で、揺るぎない自信に裏付けられた平安を得ることを目指して暮らしていったら、世界がより良く変わるのかもしれないな、なんて思いました。わたしも自分に持たされた、ささやかなささやかな能力を使って、大事に大事に仕事をして、音楽をして、心の豊かな老人になりたいと思いました。